シニアという言葉に過剰反応すると墓穴を掘るから認めたほうがいい
60歳になったら「シニア」という言葉がぐっと身近に感じるようになりました。いろんなところで「シニア割引」が適用されるし、よく買い物に行く「イトーヨーカドー」で「シニアナナコ」の看板を見ると、「あっ俺もか」と気づく。まだ入ってないけど。
ところが60歳代の半数以上は「自分をシニアだと思っていない」というデータがあります。これってどうなの?ということで、「シニア」「シルバー」「高齢者」についてちょっと掘り下げてみました。
自分はシニアじゃないし、呼ばれたくもない。その心は?
下のグラフは2017年のデータで「博報堂 新大人研」の調査レポートですが、「“シニア”と呼ばれて自分のことだと感じる」60代は、41.3%になっています。経年変化で減少していますので、今はもっと減っているんでしょうね。
また「“シニア”と呼ばれてみたい」か、という質問に対して、60歳代では11.9%と60代の約9割は「シニア」と呼ばれたいとは思っていません。
新大人研レポート No.29 新しい大人へ:オンナも変わるオトコも変わる その②
その心は?たぶん「自分はこれまでの60代とはライフスタイルが違う」という意識が働いているんだと思います。「これまでの60代」とは、見た目も肉体的にも老人に近い人、つまり「シニア」=「老いたイメージ」が定着しているから、「自分はそうじゃない」ということです。
若い世代からは反感を買うことが多い
女性向けメディアの「ガールズちゃんねる」に、上記の調査レポートに対する当時のトピックがありました。それを見ると、
- 「最近は60代でも若々しい人多いからねー」
- 「最近の60代は若いしまだ働いてるもんねー 元気だし。」
といった理解を示す意見も中にはありますが、
- 「じゃあシニア料金使うなよ?」
- 「めんどくさー。 年寄り扱いするな!って事だよね。」
- 「わがまま言うな」
- 「いやいや 60代はシニアです」
- 「じゃあシルバーで」
- 「老人よりシニアの方がいいと思うけど。」
といったネガティブな反応の方が圧倒的に多いです。
60代男女9割が「”シニア”と呼ばれたくない」と回答 | ガールズちゃんねる
これはどういうことかと推測するに、「見た目やライフスタイルがどうであれ、60歳という年齢はシニアである」という認識と、「60代の半数以上が郷ひろみや萬田久子みたいに若々しいわけがないでしょ。鏡見てね」という感情が入り混じっているんじゃないでしょうか。
「シニア」は何歳以上のサービスに使われることが多い?
「60歳という年齢はシニアである」という認識が現実と合っているかどうかは、実際のサービスで見ると分かります。(2019年6月17日現在の各公式サイトで確認)
- ハローワークの「シニアコーナー」は55歳以上のところと60歳以上のところがある。
- TOHOシネマズ、109シネマズ、ユナイテッド・シネマ、SMT(松竹マルチプレックスシアターズ)の「シニア割引」は60歳以上
- イオンシネマの「ハッピー55(G.G)」は55歳以上(シニアと言わない)
- 東京都立川市にあるシネマシティのシニア料金は70歳以上(今年引き上げた)
- H.I.Sの「シニア割」は60歳以上
- R&Bホテルの「シニア割プラン」は60歳以上
- 大相撲料金の「ファミリー/シニア桝席」のシニアは60歳以上
- スポーツクラブ ルネサンスの「シニアレギュラー会員」は60歳以上
- コナミスポーツクラブの「Days(デイズ)」は60歳からの平日昼間プラン
- 阪神タイガースの「シニア優待デー」は60歳以上
- Dell(デル)の「シニア割」は60歳以上
- アート引越センターの「シニアパック」は60歳以上
- イトーヨーカドーの「シニアナナコ」は60歳以上
- URシニア賃貸住宅(ボナージュ)は60歳以上
- カブドットコム証券の「シニア割引」は、現物株式の売買手数料が満50歳以上満60歳未満なら2%、満60歳以上は4%割引
- Jリーグ 大宮アルディージャのシニア料金は当年60歳になる人以上
- コンサドーレ札幌の「シニアゾーン」は60歳以上
- FC東京のシーズンチケットシニアは60歳以上
- 横浜FCの「シニア特別割引」は65歳以上
- 湘南ベルマーレのシーズンチケットシニアは65歳以上
- 京都サンガFCのシニア価格は65歳以上
- V・ファーレン長崎の「シニア割引」は65歳以上
- ANAの「スマートシニア空割(そらわり)」、JALの「当日シルバー割引」は65歳以上
- 横浜市交通局の「シニアパス」は65歳以上
- 東京ディズニーリゾートの「シニアパスポート」は65歳以上
- ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の「1デイ・スタジオ・パス」のシニアは65歳以上
- 東京競馬場、小倉競馬場のシニア席、中山競馬場のシニアシートなど、JRAは65歳以上
このように世の中を見渡すと、「シニア」と名が付くサービスは60歳以上が最も多いようで、次いで航空券を始めとする65歳以上もけっこうあります。いずれにせよ、いくら呼ばれたくないと言っても、60歳はシニアと認識されても仕方ないでしょう。だから抵抗するのはもうやめよう。どうしても嫌なら「スマートシニア」とか「アクティブシニア」とか、最近増えた「エルダー」で逃げるといい。
もともと「シニア」に年齢の定義は無い
そもそも日本で「シニア」の呼称が使われるようになったのは1999年~2000年頃と言われています。中高年を表す「ミドル」の上くらいでしょうか、ウケを狙ったマーケティングメッセージですね。
英語のSeniorは「高齢の者」以外に、「年長者、上級生、上級者」という意味でよく使われます。アメリカ大統領だったジョージ・W・ブッシュは、父が「ブッシュ・シニア」で子は「ブッシュ・ジュニア」と呼ばれる。学校は「ジュニア・ハイスクール」に対して「シニア・ハイスクール」と言う。
ドラマ「SUITS/スーツ」をご覧になった方も多いと思うが、アメリカの大手弁護士事務所では、ジュニア・アソシエイトからシニア・アソシエイトになり、その上のジュニア・パートナーを経てシニア・パートナーに昇進する。
日本ではこのような使い方はあまりしないから、シニアは高齢の者というイメージが定着しているんです。
ちなみにゴルフの「全米シニアオープン」や「全英シニアオープン選手権」は、PGAツアーが運営する「PGAツアー・チャンピオンズ」というシニアゴルフツアーの大会ですが、参加条件は初日時点で50歳以上です。ただ、それだけではなくて他の参加条件を見ると、優秀な成績を残してきた「上級者」というリスペクトが感じられます。
「シルバー」や「高齢者」は何歳から?
「シニア」以前は「シルバー」がよく使われていました。「シルバー」は何歳かというのも様々で、例えば横浜Fマリノスの日産スタジアム「シルバー割引」は65歳以上、東京バス協会が実施している「東京都シルバーパス制度」の対象年齢は70歳以上です。
「シルバー」の語源は「シルバーシート」からで、1973年9月15日(敬老の日)に当時の国鉄が高齢者を対象にした優先席を初めて設置した際に、座席を区別するために浜松工場に余っていた新幹線0系電車の座席に使うシルバーグレー色の予備布地を利用したことに由来します。赤字で張り替えるお金が無かったんです。今は単に「優先席」と呼ばれていますね。
なので「シルバー」が「高齢者」というイメージは日本にしかありません。
「シルバー」より前は単に「高齢者」と言われていました。「高齢者」の由来は、1956年に国際連合が提出したレポートで初めて「高齢化社会」が定義され、その時の対象年齢が65歳以上だったことによります。我が国の「前期高齢者医療制度」も65歳以上を対象にしていますね。
そういう意味では「高齢者」は65歳以上と言えるかもしれませんが、最近事故が多くて話題になっている運転免許更新時の高齢者講習は70歳以上ですし、「高齢者特別乗車証明書」や「敬老特別乗車証(敬老パス)」などの制度も70歳以上とする自治体が多いです。結局「高齢者」が何歳かも、それぞれの定めによるんです。
「シニア」は年齢を区切ったときの単なるタグと見なす
総合的に考えると、「シニア」は60歳代というのが一番しっくり来ます。「シルバー」や「高齢者」は65歳から「シニア」とかぶっていて70歳以上がメインといったイメージですね。
外見や健康状態とは関係なく、60歳はもう「シニア」と呼ばれるのが一般的なんです。
ただしマーケティングをやっている人は注意しましょう。「60歳からの、かんたんスマホ」とか言って、見るからに「後期高齢者向けスマホ」を出されても、実際60歳の私は見向きもしませんから。iPhoneを普通に使います。
写真は京セラ製Y!mobileのかんたんスマホ
単に割引サービスの対象年齢を定義している場合と、デザインやコンセプトを持った商品とでは、受け取り方が全く違うんです。コピーはよく考えたほうがいいですよ。
ということで、私は「シニア」と認めます(キッパリ)。でも「若いですねー、60に見えません」って10人中10人に言われます(自慢)。5人くらいからは「まだ50くらいに見えますよ」って言われます(さらに自慢)。「シニア」でまったく問題ありません。